高崎の喧騒をそっと離れて。

いとをかし。 オーナー


高崎の街を歩き、ふと路地裏に佇む店へと足を踏み入れる。
そこに広がるのは、モダンでありながら、どこか懐かしい凛とした空気が流れる空間だ。カウンター席が10席ほど並ぶ小さなお店『いとをかし。』

オーナー件シェフの久保田さん

オーナー 久保田さん
「お店の空間をつくるとき、一番最初に決めたのがこのカウンターのライトなんです。家具屋さんと打ち合わせをしたときに一目惚れして。これを並べたい、という想いから、他のお店の内装を組み立てていきました。」

そう語るオーナーの久保田 康太さんの頭上には、優しくあたたかい光を放つ美しいライトが等間隔に並んでいる。

お昼は週替わりのお弁当やデザートのテイクアウト。夜になれば、おつまみとお酒を嗜む和風のバルへと姿を変える。1日にいくつもの表情を見せるこの店には、訪れる人をそっと包み込むような、心地よいグラデーションが存在している。

久保田さんが料理の世界を志したのは、ごく自然な流れだった。

久保田さん
「実家がおじいちゃんの代から高崎で法事などを営む大人数向けの料理店をやっていまして、小さい頃からその背中を見て育ちました。おじいちゃんからも『お前が継いでくれ』と言われていたので、自分の中にサラリーマンという選択肢はなく、いつか独立して店をやるんだろうなとずっと思っていました。」

高崎市駅前から少し離れた店舗前の道路風景
店舗の外観写真

いまは閉まってしまった実家のバトンを、新しい形で高崎の街に繋ぎ直す。その決意とともに付けた店名が『いとをかし。』だ。

久保田さん 
「日本人なのでひらがなで覚えやすいものがいいな、というのと、和のテイストなので古風な言葉にしたくて。

古文の『いとをかし』には、趣がある、おもしろい、美しいといった、たくさんのポジティブな意味が含まれています。お客さんの記憶に、すっと残る名前になればいいなと思って名付けました。」

小規模な店舗だからこそ、ランチの席数だけに頼らない持続可能な経営を目指した。その結果生まれたのが、「お弁当」「お菓子」「和バル」という3つの軸だ。

ランチに出している様々なお弁当

久保田さん
「10席の空間でランチ営業だけをするのは、どうしても売上の天井が見えてしまいます。でもお弁当なら、より多くの人にうちの味を届けられる。


近くの会社でお弁当を食べてくれた方が『夜もやってるんだ』と知って、飲みに来てくれるきっかけにもなる。1個ずつ分けてPRしているので馴染むまでに時間はかかりますが、この設計がうちの強みです。」

夜のディナーのワンシーン

その狙いは、早くも確かな手応えへと変わっている。

久保田さん
「最近、お昼にお弁当を食べてくれたお客さんが夜に来てくださって、『副菜がすごく美味しかったから、夜のメニューも絶対にうまいと思って来たんだ』と声をかけてくれたんです。
そういう言葉をいただけると、本当にありがたいですし、やりがいを感じますね」

お弁当とバルのメニューは久保田さんがすべて手掛け、デザートや焼き菓子はパティシエである奥さまが担当する。

二人のプロフェッショナルがひとつの空間でそれぞれの技を振るうことこそが、この店の唯一無二の魅力となっている。

『いとをかし。』の料理を支えるのは、久保田さんの地元の同級生が作る無農薬野菜だ。季節ごとに「こんな野菜を使ってみたい」とオファーを出し、地域密着で仕入れている。

久保田さん
「地域のために大それたことを、というよりは、地元の繋がりを大切にしながら、据え長く愛されるお店でありたいんです。」

そんな久保田さん夫妻がいま、お店を飛び出して挑戦しているのが、高崎の新しい特産品づくりだ。

久保田さん
「今年の4月から、高崎の観光協会が主催する取り組みで『高崎レモンだるま』というレモンケーキを販売させてもらっています。

地元の素材を詰め込んだお菓子で、
審査を通ったのは今年はわずか2社だけでした。

奥さんが開発したものなのですが、このお菓子が広く知られることで、『いとをかし。』というお店に足を運んでくれるきっかけが増えたらいいなと思っています。」

高崎観光協会とのコラボで実現した檸檬だるま
久保田夫婦 

オープンしてまだ1年目。店舗を大きく拡大することよりも、まずはこの場所で「細く、長く」丁寧に営みを続けていくことが第一の目標だと、久保田さんはまっすぐな目で語る。

インタビューの最後に、これからお店を訪れる人へのメッセージを求めた。

久保田さん 「うちのお店には、お弁当、お菓子、和バルという3つの顔があります。お客さんによって、どれが一番心地よくフィットするかはそれぞれ違っていいと思っています。『お弁当が好きだな』『お菓子を買いに行こう』『夜にお酒を飲みながらゆっくり過ごしたいな』。一度お店に来ていただいて、自分に合ったお気に入りのスタイルを見つけてもらえたら、それが一番嬉しいですね。」

今夜もカウンターの優しい光に照らされながら、旬のあゆのコンフィ(大葉と枝豆の和風ソース)が運ばれ、お酒を酌み交わす心地よい音が響く。高崎の路地裏で、人と地域を緩やかに繋ぐグラデーションは、これからも優しく変化し続けていく。

鮎の和コンフィ〜大葉と枝豆のソース〜
鮎の和コンフィ〜大葉と枝豆のソース〜
店舗外観とオーナ夫婦の写真


取材を終えて
久保田さんのお話を聞いていて胸を打たれたのは、おじい様の代から続く「高崎の食の記憶」を、現代のライフスタイルに合わせたお弁当やバルという形で見事にリブランディングされている点でした。「長く、地域に据え長く愛されたい」と語るフラットな佇まい。
お昼のお弁当から、夜の1杯の地酒まで。あなただけのな時間を探しに、ぜひあの優しい光が並ぶカウンターの扉を開けてみてください。


久保田 康太
いとをかし。オーナー。群馬県高崎市出身。おじいちゃんの代から続く飲食店の家系に育ち、自然と料理の道へ。
2025年4月、高崎に「お弁当・お菓子・和バル」の3つの顔を持つ『いとをかし。』をオープン。
地元の同級生が育てる無農薬野菜を使い、奥さまと共に、地域に末永く愛される店づくりを続けている。

いとをかし。
群馬県高崎市連雀町122
お弁当・焼き菓子テイクアウト、和風バル
11:30~15:00(お弁当・焼き菓子テイクアウト)
18:00~23:00(和風バル)
日曜日、第1・3月曜日
IG @obento.okashi.yoruwabar