島田仁・青木秀蕗
PYRAMID CAFE & ROASTERY
群馬県太田市安養寺町。鎌倉時代から続く明王院の境内に、コンクリート打ちのモダンな建物が静かに佇んでいます。

境内にそびえる石造千体不動塔(通称「ピラミッド」)の足元に、副住職の島田さんと友人の青木さんが切り盛りする『PYRAMID CAFE & ROASTERY』があります。

法事だけでなく、コーヒーや料理を目的に足を向けてもらいたい——ふたりの「お寺を日常に」という想いが生み出す独特の空気に迫りました。
「お坊さんらしいことが得意じゃない」。
40歳、開業の決断
コロナ禍を経て法事・葬儀の簡略化が加速するのを目の当たりにし、島田さんは「このままではお寺が社会から必要とされなくなってしまう」という危機感を抱いていました。
“母が家庭科の教員だったので、幼い頃から料理が身近にありました。お坊さんらしく振る舞うことが正直あまり得意じゃなくて(笑)。

料理やコーヒーを通じてお寺を身近に感じてもらう方が自分らしいやり方だと思って、30歳で調理師学校を卒業、その後勉強期間や準備期間を経て40歳になる歳でカフェを開業しました。”
建物はあえてコンクリート打ちのモダンデザインを採用。「若い世代の方でも気軽に感じてもらえる空間を目指しました。お寺の敷居を下げる入口として、デザインには大切な役割があると思っています。」


青木さんの参画も、島田さんの構想を前々から聞いていてワクワクが募ったから。
“お寺の横でカフェをやるって、他にない唯一無二の面白さじゃないですか。不安よりもワクワクが勝って、参画を決めました。”
「王道のルートを外れても、毎日楽しい」が正解だった
青木さんはもともと、開業を目指して飛び込んだわけではありませんでした。

“大学は理系の専攻だったんです。学生時代にコーヒーを提供する仕事をしたとき、喜んでくれる人がすぐ目の前にいて、ダイレクトに「ありがとう」と言ってもらえる。
こういう仕事でなければモチベーションが続かないと気づいたんです。
大学卒業してサラリーマンとして働くという王道のルートから外れてこの仕事を選んだけど、毎日楽しくやれています。自分が楽しいと思える選択をするのが一番いいと思います。”
精進「風」にする理由
看板メニューは「精進風キーマカレー」。正式な精進料理では使えない五辛(玉ねぎ・ネギなど)を排除せずに作った背景には、島田さんらしい想いがあります。

“住職(父)がネギや玉ねぎを育てていて、檀家さんも野菜を持ってきてくれる。地域の野菜を精進料理のルールで断るのは残念すぎる。野菜を中心にする精神は大切にしながら、地域の食材を活かした精進風にしています。”
健康食やビーガンと謳わないのも同じ理由から。売り文句が先に立つとお寺への入口が狭くなってしまう、と島田さんは言います。
ミャンマー豆と自家焙煎。エスプレッソへのこだわり
焙煎は島田さんが開業1年前から独学で担当。ミャンマーコーヒーを核に据え、お客さんの反応を見ながら中煎り〜深煎りへとシフト。生豆をラム酒に漬け込んで焙煎している豆も取り入れています。
“エスプレッソはグアテマラとコロンビアのブレンドです。グアテマラのチョコレートのような甘みとコクが好きで、カフェラテにしてもミルクに負けない力強さを意識して作っています。”
青木さんは接客ではかしこまりすぎず、人間らしいフランクさを大切にしています。

「阿吽の呼吸は1ミリもない」
ふたりが、ちょうどいいバランスをつくる
開業から3年半。島田さんと青木さんのコンビは、息の合ったパートナーシップとは少し異なると言います。
“「なんで今それやるの?」って場面も多いですよ(笑)。でも、それがお店のバランスを保つ上で大事だと思っています。
島田さんは調理師視点、私はお客さんが休日にわざわざ来てくれているという客視点を大切にしている。同じ方向を向きすぎないからこそ、ちょうどいい落としどころが生まれるんだと思います。”

島田さんも「性格は真逆」と頷きます。その違いが、料理と接客の絶妙なバランスを生み出しています。
お寺の本質は「自分を整える場所」
カフェを始めてからお寺の歴史を勉強し直した青木さんは、ひとつの持論にたどり着いたといいます。
“法事もお葬式も、亡くなった人のためだけじゃなく、遺された人が心に区切りをつけて明日からの一歩を踏み出すための儀式なんじゃないかと思うんです。
お寺の本質は、自分を整える場所にあるんじゃないか。いつでも気軽に、ふらっと気持ちを整えに来てほしい。テイクアウトを持って境内でのんびり過ごしてもらえたら嬉しいです。”

お寺に、新しい動線が生まれた
“檀家さんと顔を合わせる機会が格段に増えました。コーヒーを飲みに、カレーを食べにという目的で来てくれるようになって、近所でなかなか会えなかった方々がここで数年ぶりに再会する場面もよくあります。”
青木さんが特に嬉しいのは、若い人たちが帰りに境内を散策し「御朱印はありますか?」と聞いてくれること。春のマルシェ、月1回の本堂ヨガ、テラスで開催する秋の販売会など、境内に人を呼び込む仕掛けも続けています。

また、新メニューの「プルドポークサンド」を片手に、ショーケースにあるビールなどのアルコールを楽しめる新たな試みにも挑戦しています。

コーヒーの香りが、お寺への扉を開く。島田さんと青木さんが積み重ねてきた3年半は、尾島町の境内を「法事のときだけ行く場所」から「日常の中の居場所」へと、少しずつ変えています。
「阿吽の呼吸は1ミリもない」と笑い飛ばすふたりの言葉に、バランスの面白さを感じました。鎌倉時代から続く境内に、コーヒーの香りが漂うPYRAMID CAFE & ROASTERY。ぜひふらっと立ち寄ってみてください。
島田仁さん / 青木秀蕗さん
PYRAMID CAFE & ROASTERY オーナー。島田さんは明王院副住職。お寺離れという危機感から40歳で調理師学校に通い、カフェを開業。青木さんは抽出・接客を担当。ふたりの異なる視点が独自のバランスを生み出している。
PYRAMID CAFE & ROASTERY
群馬県太田市安養寺町200-3
お寺カフェ(精進風キーマカレー,コーヒー,スイーツ,アルコールetc)
※精進風キーマカレーは基本的にご予約をお願いしているため、公式LINEからご予約をお願いいたします。
公式LINEアカウント @pyramidcafe
IG @pyramid_ota
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