西澤 公佑 / 日菜子
喫茶 ニュー シマヤ
群馬県前橋市。歴史ある街並みと新たなカルチャーの芽吹きが心地よく混ざり合うこの街に、またひとつ唯一無二の物語を宿した喫茶店が産声を上げようとしている。

迎えてくれるのは、下仁田で150年以上続く老舗和菓子屋の娘として育ち、美容師や洋菓子の世界を経て家業の価値を見つめ直した妻・日菜子さんと、幼少期から音楽と料理に親しみ、オーストラリアで4年間DJと厨房の現場で腕を磨いてきた夫・公佑さんだ。

「和菓子」と「レコード」——見交わらないはずの2つのカルチャーがなぜ前橋の路地裏で重なり合い、どんな未来を紡ごうとしているのか。11月のオープンを前に、開店前夜のリアルな熱量と街への想いに迫る。
150年の和菓子と、オーストラリアで鳴らしたビート
“僕はずっと音楽と料理が身近にある環境で育ちました。とにかく音楽が好きで、30歳の時にオーストラリアへ渡って、DJをしながら現地のレストランのキッチンで働くという生活を4年間続けていたんです“
穏やかな語り口の中に確固たるカルチャーへの愛を覗かせる公佑さん。

一方、隣で微笑む日菜子さんのルーツは、群馬県下仁田町で150年以上・5代続く老舗和菓子屋にある。
“実家が老舗だったんですけど、昔は特に継ぐ気もなくて、両親も「好きなことをやっていいよ」と言ってくれていたので、東京で美容師として働いていました。
でも、コロナ禍などを経て立ち止まったとき、150年以上も続いてきた実家の看板の重みや価値にハッと気づいたんです”

美容師をフリーランスに切り替え、洋菓子の技術を学ぶためにケーキ屋へ飛び込み、さらに実家で父のもと和菓子の修行を重ねた。
“せっかく料理ができる夫と一緒になったんだから、私が作れるスイーツや実家の和菓子を出せる喫茶店を2人でやったら面白いんじゃないかって。そこからすべてが始まりました”

伝統をパフェに仕立て、昼から夜へ繋ぐグラデーション
ふたりが掲げるコンセプトは「和菓子とレコード」だ。店内にはDJブースを設置し、中古レコードの販売や音楽イベントを定期的に開催する予定という。そして喫茶の主役となるのは、日菜子さんが手掛ける和洋折衷の甘味だ。

“和菓子って、どうしても買って持ち帰るイメージが強くて、店内でゆっくり食べる機会って意外と少ないと思うんです。だからこそ、昔から実家で作っている伝統の和菓子はもちろん、それをアレンジした「和パフェ」などを店内で楽しんでもらいたいなと思っています”
職人の手仕事が生み出す和菓子の繊細さと、アナログレコードが刻む温かいグルーヴ。ふたつのカルチャーが調和する空間は、訪れる人々にこれまでにない豊かな余白を提供してくれるはずだ。
行政の熱量に背中を押され、前橋で即決した理由
出店を決意した当初、ふたりは高崎市を中心に1年以上かけて物件を探していた。しかし理想の場所には巡り合えなかった。転機となったのは、知人の「前橋の雰囲気がふたりに合っているし、いま前橋がすごく面白い」という一言だった。
“実際に前橋へ足を運んでみたら、市役所の方を紹介していただく機会があって。そこからのスピード感がとにかく早かったんです。
行政の方々が本気でまちおこしに情熱を注いでいて、個人店の出店をここまで親身に応援してくれる距離感は今まで経験したことがありませんでした。「前橋、めちゃくちゃいいじゃん!」ってふたりで即決しましたね。”

しかし、地方都市ならではのリアルな課題にも冷静に向き合っている。
“前橋は歩行者が少なく、完全な車社会です。夜の需要をどう作っていくか、代行を呼ぶ文化をどう定着させていくかはこれからの課題です。
でも、引っ越してきてまだ1年も経たない僕たちを街の人たちが温かく迎え入れてくれました。似たような想いを持った魅力的な個人店も増えているので、みんなで連携して前橋全体を明るくしていきたいです“

下仁田と前橋を繋ぐハブへ。11月オープンへ向けて
オープンに先駆け、ふたりは精力的に動き始めている。8月末に開催された「アジアンナイトマーケット」への出店(公佑さんはDJとして出演)や、下仁田の大正時代からある古民家と蔵を改装したカフェ『いとま。』でのポップアップなど、街の枠を超えた活動を展開中だ。
“下仁田も本当にいい街ですが、前橋に来たことがない人も多いんです。だから下仁田でイベントをやるときは前橋の良さを伝え、前橋では下仁田の歴史を伝える。お互いの街を行き来するきっかけになれたら嬉しいですね。”

店舗は9月に着工し、一部DIYを交えながら前橋の芸術祭期間中でもある11月中のオープンを目指している。
“営業時間はランチから夜の22時、23時頃までを予定しています。自分たちの手で少しずつ空間を育てながら、街の人たちと一緒に面白い日常を作っていきたいです。”

レコードの針が落ち、芳醇な和菓子の香りが漂うその日まであと少し。前橋の路地裏に、またひとつ通いたくなる理由が増えそうだ。
オーストラリアのカルチャーに身を浸してきた公佑さんと、150年続く和菓子のDNAを持つ日菜子さん。一見対極にあるようなふたりの個性が、少しの違和感もなくひとつの空間へと溶け合っていく様子がとても印象的でした。
「高崎で1年探して難航した末に、前橋の人の熱量に触れて即決した」というエピソードには、いま前橋という街が放っている求心力がそのまま表れています。11月、あの扉の向こうでどんな音楽と甘味が待っているのか、今から楽しみでなりません。
西澤 公佑 / 日菜子
喫茶 ニュー シマヤ オーナー夫婦。夫・公佑さんは静岡県出身。親の影響で幼少期から音楽と料理に親しみ、30歳でオーストラリアへ。4年間DJとキッチンの現場を両立し帰国。妻・日菜子さんは群馬県下仁田町出身。創業150年超の老舗和菓子店の娘として育ち、東京で美容師として活動後、洋菓子店勤務や実家での修行を経て製菓の技を磨く。2026年11月、前橋市にて夫婦の個性を結集した喫茶店を開業予定。
喫茶 ニュー シマヤ
群馬県前橋市(詳細住所はオープン時に公開予定)
喫茶・和菓子・中古レコード販売・DJイベント
営業時間 ランチ〜22:00 / 23:00(予定)
IG @shimaya_kissaten
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