「超えるべき背中、譲れぬ味」二代目が背負う伝統と、泥臭き覚悟


渋川駅から少し離れた、渋川の地で長年愛され続けている名店「中国料理 四川」

その厨房には今、二人の料理人が並んで立っています。一人は、店を地域トップクラスの本格中華へと育て上げた偉大な父親であり、現代表。そしてもう一人は、東京での過酷な修行を終えて故郷へ戻ってきた息子です。

伝統を継承する重圧、偉大すぎる先代への悔しさとリスペクト、そして自分の色を模索する日々。そこには、単なる事業承継という言葉では片付けられない、一人の男としての強烈な美学と泥臭い葛藤がありました。

真剣な眼差しでインタビューを受ける唐澤正哉さん1



今回は、若き次期オーナーの胸の内にある圧倒的な熱量と、その裏に隠されたリアルな不安や覚悟に迫ります。

彼の料理人としての原点は、東京での過酷極まる下積み時代にあります。朝6時に出勤し、夜中の2時まで厨房に立ち続ける日々を週6日。文字通り「仕事しかしていない」約6年間を彼は駆け抜けました。

そんな過酷な環境から故郷へ戻る転機となった背景を、次のように明かしてくれます。

真剣な眼差しでインタビューを受ける唐澤正哉さん2

「こっちに帰ってくるきっかけは、もう親父が昔ほど元気じゃないなって思った時に、あの時戻っとけばよかったなって思う前に戻りたいなっていうのがあって。ちょうど東京で修業してて6年経ったぐらいに渋川に戻ってきました。」

「東京の下積み時代は本当に仕事しかしてなくて、朝から晩まで週6日だから朝6時に出勤して、夜中の2時までやってみたいな感じをずっとやってました。あの時の経験がもう今の糧になっているというか、あの時の経験があるから、今も支えられている感じですね。」

都会の激しい競争の渦中にあっても、彼の頭の片隅には常に故郷の景色がありました。一度群馬を離れて外から見たからこそ、地域のあたたかさや独自の魅力がより深く胸に染み渡ったと言います。

「渋川思い出すとかうんぬんではなく、もう常に考えてましたね。
ずっと戻りたいなっていうのもあったし、東京は東京でいいところでしたが、やっぱり群馬っていいところだな、っていうのを東京いたから余計に分かったので、それは常に考えてましたね。

地元に戻った彼を待ち受けていたのは、身内だからこそ余計に高くそびえ立つ「父親」という名の巨大な壁でした。厨房で実際に並んで立つことで、彼は先代が積み上げてきた圧倒的な実力差をまざまざと痛感することになります。

「戻ってきて、一緒には働く中で、やっぱ親父すごいなと痛感してます。心構えとか、メンタルの部分とか。ちょっとやそっとのことじゃぶれないし、落ち込まないんですよ。」

「違いを感じるのは場数っすね。やっぱそこは違うかな。いや負けちゃいらんねえけど、今は勝ってねえなってのはね、ありますね。客観的に見て今はまだ勝てていない。俺にはまだそこまでの何かがない。」

父親の現オーナーと次期オーナー

先代が掲げる軸は、徹底した「お客様第一」。客が笑って満足するからこそ、それが確固たる対価になるというビジネスの本質を、父親は完全に理解していました。
その領域にまだ達していない自分への焦りや不安を抱えながらも、彼は父親のやり方に自分を寄せることで、伝統を体に染み込ませようとしています。

やっぱお客様第一ですね。本当にお客様第一のやり方を徹底してる。僕はまだそこまできないなっての俯瞰で見て思いますね。
やっぱりお客さんが笑ってなんぼ変な話、そこで笑ってくれるから金になるっていうのがもうわかってるので、親父の場合は。

それはまだ僕は経験もないし、だからたまに親父がいない時考えるんですよ。この場面は親父だったらどうするかなって考えて、もう自分もそのやり方に追いつけるようにやってますね。」

真剣な眼差しでインタビューを受ける唐澤正哉さん3


一方で、彼はただの模倣で終わるつもりはありません。同じレシピ、同じ分量、同じタイミングで作っても、料理人の気概によって味が変わるのが料理の奥深さ。

父親の完全な真似をするだけでは自分の敗北を意味すると知っているからこそ、彼は「ダメならダメでしゃあない」という覚悟で、自身のカラーを前面に出し始めています。

「こういうなんか新しい料理っていうのは、親父がやってきてない料理っていうのは、多分僕はどんどん出してるので。もっと出してもいいような気もしますけど。

それでも自分の中ではチャレンジしてる感じですね。自分が東京で就業した今風って言ったらおかしいですけど、今、東京で出しているようなそういう料理はなるべくお店でもみんなに食べてもらいたいなっていうのはあります。」

コース料理のカニ
コース料理のフカヒレ

実際に新たな試みととして、餃子の冷凍販売も開始し、お店での販売に加えて、高崎の商業施設でも販売をし販路を拡大している。

同じレシピ、同じ分量、同じタイミングで作っても、料理人の気概によって味が変わる。そんな料理の奥深さと、技術やプロセスへの強いこだわりが彼の言葉から溢れ出します。

「やっぱり同じ分量で同じ調味料で調理をも、全く同じ味にはならないんです。まあぶっちゃけた話すると、僕の方が上手いであろうと思って作んでますけどね。それは本当に面白いです。飲食の面白さであり、醍醐味だと、それはすごくつくづく思いますね。」

中国料理 四川の店内風景

「群馬の中ではトップクラスで本格的だと思ってます。
自分は群馬県内の中華を色々視察に行きますけど、やり方が違うかなっていうのは、そこはそこでいいところだし、うちにはうちのいいところがあると思ってますね。

ただ、自信を持って言えるのはより本格的な中華を提供しているってところですかね。出してるものも宴会なんか特にそうですけど。例えばカエルとか、ナマコとか熊の手とかもだしてます。こだわりというかプライドというか、やるんだったらそういう料理を出そうみたいなのはありますね。」

東京の飲食店とは異なり、ローカル市場は「コミュニティの濃さ」が命。約70%という驚異的なリピート率を誇る「渋川四川」だからこそ、彼は目の肥えた地元の常連客を飽きさせないための独自のルールを課しています。

「うちの親父みたいにお客様とこれだけ喋るのって、東京と比べて、地域のコミュニティが深いというか、そこは強く実感します。70%ぐらいでリピートなんですよ。けど東京は30%満たないぐらいだと思うので、そこはなんかあ全然違うなと。

だからこそ同じ内容でやってしまったら、お客さんは飽きちゃうので、だからいかに飽きさせないか、定食や宴会もメニューは入れ替えるようにしています。



この前どういう料理を出したから、次はこういう料理やろうとか、まあそれが良いとか悪いとかは別として、お客さんに合ってるか合ってないかは別として、変化させ続けなきゃいけないっていうのは自分でなんか持ってますね。

彼が描く未来のビジョンは、現状維持ではなく「他店舗展開」という明確な攻めの姿勢です。美味しい料理を出すのは大前提。その先にあるビジネスとしてのスケールを目指す彼の根底には、驚くほど純粋な「父親への願い」がありました。

「もう他店舗展開、もうそこにつきますね。自分のやる気とかモチベーションは、同じことをやってて同じ場所で同じ敷地を守っても、やっぱりま男って多分みんなそうだと思うけど、なんか承認欲求の塊じゃないですか。

だから、自分自身が親父よりやってるでしょ。って、多分結局のところ思ってないと自分がつまんないから。もうそこは絶対評価に値するんだったら、もう2,3店舗は最低で出さないと、自分自身も評価できないし、周りからも明らかな数字として評価がされないかなっていう。

じゃないとやっぱつまんないですよね。料理がいくら美味しいって言われても美味しいのは当たり前なんだよって感じです。もう正直のところ。もう数字、そこをいかに伸ばせるかで。」

「男の承認欲求」の塊として。死ぬ間際に一度だけ褒められたい

「死ぬ間際に親父から『お前、よくやってたよ』って一言だけ認めてもらえれば、僕はそれでいい。給料だってもらえなくてもいいし、普段口を聞いてくれなくたっていい。自分がやってきたことを最後に1回だけ認めてくれたら、『ああ、やってきてよかったな』って心から思えるとおもうんです。

家族経営や親子で事業をやっている人の根本は、みんな絶対にそこに戻るはずなんです。親父に『よくやってるわ』って言われた時に、最高のドヤ顔で『そうだろう』と言い返したい。そのために今、やってるんだと思います。」

そこにあるのは、「ダサい言動や妥協は絶対にしたくない」というプロフェッショナルとしての強烈な自負です。納得のいかない料理が万が一お客様のテーブルに行ってしまったら、引っ張ってきてでも作り直したいと言い切るほどの狂気的なまでのプライド。

お客様を裏切らないことはもちろん、それ以上に「自分自身を裏切れない」という孤独な決意が、彼の厨房での一挙手一投足を支えています。

群馬はあったかいよ。ローカルで挑戦しようとする人たちへ

営業開始のチャイムとともに、厨房のボルテージが一気に跳ね上がる瞬間。ジェットコースターのように加速するそのライブ感の中で、冷静に料理の順序を組み立て、お客様の満足をかっさらっていく。その瞬間に彼が感じる快感は、何物にも代えがたい生きがいそのものなのです。

インタビューの最後、彼は東京と地方の間で揺れる起業志望者に向けて、ローカルならではの「繋がりの濃さ」というストロングポイントを語ってくれました。
都会の激しい競争社会で戦う人々へのリスペクトを忘れず、それでもなお「どこで死にたいか、どこで子供を育てたいか」を天秤にかけたとき、群馬という選択肢はこれ以上ない温かさで迎えてくれると確信しています。

「なんか好きな方を取ればいいと思うんですよね。極論どこで死にたいとかどこで子供を育てたいとかどこでこういう仕事をしたいとかっていうのがあると思ってて、そのその時に好きな方を天秤にかけた時に好きな方を取ればいいと思ってて。
僕は群馬が好きで、群馬で育ててもらったから、群馬で恩返しがしたいと強く想っていたので、もうおのずそういう結果になりました。

とにかく『群馬はあったかいよ』ってことにつきます。東京とは違う強いストロングポイントがローカルにはあります。
分かりやすく言うなら、『無駄な出会いがない』んですよ。友達の友達の友達までいけば、大体同世代でみんな繋がれてしまうような絶妙な狭さがある。
東京だったら、同じ学校の人間ですら『いや、ごめん知らねえわ』ってなるくらい人が多すぎますよね。でも群馬のこの距離感の近さだからこそ、出会った瞬間に深い仲間になれる。それは東京には絶対にない、ローカルならではの素晴らしい強みだと思います


唐澤正成
中国料理四川 渋川支店の次期オーナー。
東京で約6年間、朝から深夜まで文字通り料理漬けの下積み時代を経験。実家の代表(父親)の体調の変化をきっかけに、「後悔する前に戻る」と決意し群馬へUターン。現在は先代の「お客様第一」の教えを身体に叩き込みつつ、東京で培った現代的なトレンド中華を取り入れた新たな挑戦を続けている。

中国料理四川 渋川支店
群馬県渋川市川島1658−1
中華料理
営業日 11:00〜15:00,17:00〜21:00(基本月曜定休)
IG
@shisen_shibukawa
WEBサイト https://shisen4000.com/